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超音波断層法の開発・改良,とりわけ電子スキャンの出現により胎児観察が容易となり,観察所見と臨床結果との統合から胎児診察と呼び得る医療が芽ばえつつある。すなわち,妊娠の管理をまかされている我々産科医にとって,母体と同様に胎児をも診察する必要が生じてきたわけである。「つらい」,「苦しい」と訴えられない胎児を診察するためには,先ず,「いつ,いかなる時期に胎児を診察すべきか」を検討しなければならない。換言すれば,「妊娠のどの時点で超音波胎児スクリーニングを行えば,最も効率よく臨床に必要な胎児情報が得られるか」ということであり,胎児管理水準をどのレベルに設定するかに懸っている。胎内感染症などの急性に発症する胎児仮死を除くと,妊娠中の胎児仮死(ante—partum fetal distress)はかなり緩徐に経過することが明らかになってきており,妊娠初期・中期・後期の超音波スクリーニングにより胎児計測・評価を行えば,顕性胎児仮死・胎内死亡に至る前に慢性胎児仮死と診断することは可能である。急性胎児仮死は超音波断層法のみでは管理しえない。胎児形態異常診断はこうした超音波スクリーニングにおける副次的産物であり,本稿で提示する胎児腎疾患症例もスクリーニングとしての胎児診察時に診断されたものである。
胎児が尿路系疾患を有し,無尿のため羊水過少に陥れば,胎児肺の発育・成熟は高度に障害され,児は出生直後に呼吸不全にて死亡する。胎児は妊娠14週には既に尿産生を開始しているが,無尿の胎児がいつから羊水過少を呈するかは定かではない。筆者は1978年以来5例(当科の年間分娩数は約450例)の胎児尿路系疾患を経験したが,うち2例が羊水過少を示し出生後2〜3時間で死亡した。1例(bilateral multicystic dysplasia of kidney:Potter’s type Ⅱ)は妊娠19週5日の中期スクリーニング時に既に羊水過少を呈しており,他の1例(urethral obstraction)は妊娠21週5日の超音波検査時に羊水過少を示していた。他の3例(2例は片側のrenal cystic disease,1例は軽症の両側水腎症)は,いずれも羊水過少を来さず,現在も生存中であり,現時点では予後良好と考えている。5例中4例は男児であり,死亡した2例はいずれも男児でPotter’s faciesを呈した。
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