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碧く澄みわたった秋空,しかしそうはいかない心境になるのが"新生児脳障害"に思いをはせた時である。
今回の「新生児障害の初期管理」で詳細かつ高度に論じられている病因・病態生理を通読させていただいた感想は,率直に言わせていただければ,皮肉にも,新生児脳障害の初期管理,とくに治療法の乏しさ(決め手のなさ)の再認識であった。筆者は,常日頃,送られてくる重篤な仮死児(すべて痙攣や意識障害,時には極めて高度の帽状腱膜下出血でショック状態にある)をみるたびに,何か決定打がないものかと歯がゆい思いにかられていた。CTスキャンニングによる頭蓋内出血の早期診断,アルカリ療法の危険性の指摘,グリセロールやマンニトールなどの高浸透圧溶液による脳浮腫の軽減,CDP-choline (ニコリン)やcytochrome Cの脳の解糖機能改善による無酸素症性脳症への治療応用の可能性,といったいくつかの臨床上の進歩も達成されてきてはいるものの,総論で松村らが指摘している"10年間の新生児医療の進歩に取り残されている部分が新生児脳障害といえるかもしれない"という言は,まさに至言であると筆者には思われる。ちなみに,われわれの施設における周産期仮死による低酸素症性脳症と頭蓋内出血の症例(すべて他院出生児で,ほとんどが第一次施設である病産院での出生)の年次別例数をみると,図のごとく,過去6年間ほとんど減少していない。聖隷浜松病院紫田隆らの調査(Personal communication)でも,過去10年間の新生児死亡統計において,仮死の占める率は,他の死因に比して,それほど減じていないという事実は,筆者らの統計と矛盾していないようである。さらに,この"仮死"について思うことは,われわれ第二次施設にある新生児科医と,第一次施設内の産科医との間に"意識"のずれがあるのではないかということである。つまり,ある一つの第一次施設では,年間,仮死児(比較的重症な)が1例出生するかしないかであるから,問題にならないといっても,われわれ第二次施設では,結果的に年間10数人も集まってくることになり(ちなみに,新生児疾患の中心的位置を占め,症例も比較的多い特発性呼吸窮迫症候群は,筆者らの施設では年間20〜30例)これを軽視することは不可能である。その辺の感覚的ギャップは,"仕方がない"として片づけられてよいものであろうか?
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