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はじめに
筆者にあたえられたテーマは婦人科手術後に発生する不定愁訴症状のうちで,とくに心理的要因が重要な意味をもつもの,すなわち心身症としての不定愁訴に対する治療法である。たしかに肉体面からのみ扱つていこうとする従来の肉体偏重医学では,このような心理的,社会的,人間的な要因がつよく関係して発生している症例には,はなはだ手こずつているのが現状である。外科方面でも田北1),林田2),石井3,4),その他5)により,しばしば開腹術後に複雑多彩な愁訴を示す症例のうちには心理的要因にもとづくものがみとめられ,しかもこれらは治療困難な故に半ば放任されている傾向にあると指摘され,報告者はいずれも心身医学的治療の必要性を痛感すると述べている。婦人科方面では鳥取10)や野口ら9)によつて婦人科手術後に発生する自律神経症についての調査報告がなされているが,心身症としての術後不定愁訴については今日,あまり関心が払われてない。しかるに,欧米ではWengraf,F.(1946)6),Kroger,W.S.(1957)7),Solomon,E.M.(1962)8)などが子宮摘除後の心身医学的観察を行ない,女性機能と密接に結びついている性器に手術が施されることは,これによつて身体的変化が招来されるだけでなく,心理的にも大きな打撃をうけることが少なくない。そして症例のうちには手術をキッカケとして心理的防衛機制(defense mechanism)を発動し,しばしば術後に種々の身体異常を呈するものが存在する点を強調している。筆者は婦人心身症の診療を通して,婦人科手術後に発生した不定愁訴症候群13)(不定愁訴を主体とする症候群をいい,従来の自律神経症あるいは自律神経症候群に一致する)を数多く扱う機会を得たので,以下,心身症としての術後不定愁訴に焦点をおいて述べることにしたい。
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