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はじめに
1950年以降いわゆる交叉感染(cross infection)としての病院内感染が病院ブドウ球菌感染症Hos-pital staphylococcosisを中心にいろいろの問題を提起してきた。最近ある産院で起こつた乳児の集団結核感染が世間の関心をひき,これが果して避けられない院内感染かどうか論議された。たまたまこの一件は結核という特殊な疾患の院内感染であつたため注目を集めたのであるが,現実にはもつと重大な院内感染がありはしないか,しかも従来これがあまりに問題とならずに処理されたきらいがないであろうか。近年Aseptic-technicの確立,抗生物質の相次ぐ出現等化学療法の発達普及による感染症治療の進歩や病院設備の改善,デラックス化等が次々にみられるにかかわらず,院内で発生する感染症の頻度は往時に較べ必ずしも減少していない。特にわが領域のごとく新生児,未熟児を扱う分野では一たん感染が起こるとその影響はきわめて大きいものがある。
閉鎖環境である病院内で発生する感染症の特徴としては,第一に耐性菌感染症の多いことがあげられる。これは院内では抗生物質の使用量が多く,ために耐性菌が発生しやすいことに起因する。したがって耐性菌感染は経路の発見が困難なだけに患者自身に重大な結果を招くことがあるほかその患者が感染源となる可能性も予想される。第二の特徴は院内には化学療法を施行中の開放性化膿巣を有する患者や感染に対し抵抗力の減弱している新生児,褥婦,慢性疾患患者等が多数収容されており,健康人には感染を起こすことの少ない弱毒菌による感染も起こりうることである。結局病院環境はいわば耐性菌の感染,蔓延にとつて最適の諸条件を備えた場所ということができよう。
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