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はじめに
ヒトの子宮頸癌発生機序の追求には,種々の問題がつきまとう。同一人について子宮頸部の上皮異常を follow-upすることははなはだ困難で,厳密な意味では不可能に近いとも思われ,いきおい多数例についての検索によつて発癌過程を推察する方法がとられる。さらに,実験動物を用いてこれを追求することが当然考えられる。
動物では子宮腫瘍の自然発生はきわめてまれで,ホルモン,ことにエストロゲン,3,4—ベンツパイレンや20—メチルコラントレン(MC)などの発癌物質あるいはスメグマなどによつて実験動物,主としてマウスやラットに了宮頸癌を人工的に発生させた報告は古くから数多くある。しかし頸癌発生機序の分析について報告しているものは意外に少なく1)〜3),これらの実験成績はヒトにおいて考えられている発癌機序とは必ずしも一致していない。この理由として次のようなことが考えられる。すなわち,実験の目的が頸癌発生過程の追求以外にあることが多いこと,人において自然発生する腫瘍と動物に人工的に発生させた腫瘍とは一般に性格が全然異なるものであると考える学者のあることなどがあげられる。さらに,従来報告されている発癌実験では,主として子宮頸部の扁平上皮にのみ発癌物質が作用しているので,扁平上皮からの発癌が観察されており,これと発生母地として頸部の円柱上皮が重要視されている。ヒトの頸癌発生過程4)とを直接比較することには難点がある。したがつて,実験動物を用いて頸癌発生機序を検索するにあたつても,ヒトの場合と同様に,頸部円柱上皮における発癌と扁平上皮における発癌とは別個に分析,追求することが必要である。この意味において,現在著者らが行なつている頸癌発生法(MCを浸透させた糸をマウスの子宮頸管内に挿入固定する方法,図1)5)〜8)は,マウスの頸部における扁平上皮・円柱上皮境界部が頸管の深部に存在するという解剖学的特徴に立脚して,頸部の円柱上皮,扁平上皮の両部にわたり同じようにMCを作用させて,両上皮部からの発癌が観察できるものであつて,ヒトの頸癌発生のモデル実験用として今日のところ最適のものと考えられる。
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