連載講座 産婦人科医のための血液学・6
妊娠貧血
古谷 博
1
Hiroshi Furuya
1
1東京大学医学部分院産婦人科教室
pp.493-498
発行日 1967年6月10日
Published Date 1967/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409203719
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はじめに
血液疾患としてその病因の概念や血液学的特徴など臨床像が明確にされているもの,あるいは失血による単純な水血症のためにおこる貧血を除外すれば,妊娠時にみられる貧血は広い意味における栄養の失調,特に血色素生合成,赤血球の産生と分化に必須な各要素のいずれかに絶対的あるいは相対的な不足状態がおきたためか,あるいはこれに関与する代謝過程が妊娠を背景として変調したためにあらわれたものであるといつても過言ではない。
したがつて造血機能に関与する諸要素の需給が,妊娠経過に従つて不足なく保たれている場合には,妊婦は貧血を示さず,軽度の生理的水血症によつて血色素量が正常値の下限までわずかに下降するに過ぎない。妊婦の貧血が分娩後には自然に回復するものが多いという理由だけで,これを生理的現象とみなすことはできない。それは貧血の背景にあるこれら諸要素の欠乏やその代謝異常が,母体および児に対して妊娠中はもとより,出産後まで種々の影響を及ぼすことが明らかにされてきたからである5,6)。したがつて,われわれはこの貧血の中からその原因の明らかな貧血を分類し,同時にこれらの異常と生理的血色素低下の範囲内にとどまつているものとをはつきり分離しなければならない。
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