連載 FOCUS
卵巣癌に対する分子標的薬の現状
佐藤 慎也
1
,
紀川 純三
2
1鳥取大学医学部産科婦人科
2鳥取大学医学部附属病院がんセンター
pp.388-392
発行日 2012年4月10日
Published Date 2012/4/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102965
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はじめに
近年の分子生物学の進歩により,種々の分子標的治療薬が開発されてきた.分子標的治療薬は従来のcytotoxic drug(細胞毒性薬)に対してcytostatic drug(細胞静止薬)と呼ばれ,がんの生物学的特性に関連した遺伝子の検索(シーズ検索)により創薬される.分子標的治療薬には,主にリガンドおよび受容体を標的とする薬剤(抗体やDecoy受容体)と受容体のチロシンキナーゼ(TK)・ドメインを標的とする薬剤(低分子化合物)とがあり,その標的因子から(1)血管新生阻害薬,(2)増殖因子受容体・シグナル伝達阻害薬,(3)DNA修復・転写制御因子阻害薬に分類される.分子構造が類似した複数の分子を標的とする薬剤はマルチターゲット阻害薬と呼ばれる.
本邦でもいくつかの分子標的治療薬はすでに保険収載され,大腸癌や肺癌などでは標準治療に組み込まれている.しかしながら,婦人科領域では保険収載された分子標的治療薬は皆無であり.国際的にも出遅れていた1, 2).ようやく卵巣癌を中心に分子標的治療薬の国際臨床試験や治験が行われるようになり,今後の応用が期待される.
分子標的治療薬の有効性は腫瘍の増殖抑制効果よりも標的分子の阻害効率が指標となる.至適投与量は必ずしも最大耐用量ではなく最少有効量である3).また,作用機転が従来の抗腫瘍薬と異なることから,使用に際しては効果判定や有害反応について十分な理解が求められる.したがって,産婦人科医にも分子生物学的知識が必要となる.
本稿では,卵巣癌に対する分子標的治療薬の臨床試験の現状について概説する.
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