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1 はじめに
卵巣癌はprimary cytoreductive surgeryとadjuvant chemotherapyが基本的治療であるが,その60%を占める進行癌においては,初回治療として投与されるTC(carboplatin+paclitaxel)療法により50~60%が完全寛解に至るにもかかわらず,いまだに5年生存率が20~30%と予後が悪い癌として知られている.その理由として,当初抗癌剤に感受性を示していても次第に耐性を示す場合が多いことが考えられる.ことに,転移病巣は多くの場合に抗癌剤耐性を示す.したがって,1st lineのレジメンとして代表的なシスプラチンおよびタキソールの耐性化の分子機構の解析とその解除を可能にすることは,卵巣癌に対する新たな治療戦略を考えるに当たり重要な課題である.
癌の増殖・浸潤・転移は種々の機構からなるが,いずれにもシグナル伝達関連因子の関与が知られ,また抗癌剤の感受性はアポトーシスシグナルと生存シグナルのバランスにより決定されるといわれている.生存シグナルとしては,増殖因子の基本的なシグナル伝達経路を構成するmitogen-activated protein(MAP)kinaseファミリーの1つであるextracellular signal-regulated kinase(ERK)経路と,癌化学療法の標的となることが示唆されているPI-3 kinase-Akt経路が知られている.また,アポトーシスシグナルのBcl-2 associated death protein(BAD)は,そのセリン136残基がAktにより,セリン112残基はERK経路によりリン酸化されること,すなわちERKとAkt経路が合流してBADのアポトーシスシグナルとしての機能を抑制し,生存シグナルとして作用することが報告されている.近年,Aktの基質で転写因子でもあるNFκBは生存シグナルとして作用するのみならず,浸潤・血管新生にも関与することが明らかになった.そこで,われわれは,生存シグナルであるERK,Akt,BAD,NFκBを標的分子として着目し,それらがシスプラチンなどの白金製剤およびタキソールなどのタキサン製剤に対する耐性化に関与しているのか否かを検討し,それらの阻害剤を用いた分子標的治療の可能性について検討した.
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