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病院における医療安全管理施策は,現場のシステムはなお不完全で,かつ個人がミスを犯すことは避けられないとの前提で行われています.昨今の統計解析データに基づく専門家の意見では,総合病院や大学病院では,年間のインシデントレポート報告が少なくとも病床数の5倍以上の件数は出され,その10%程度が医師からの報告であることが望ましいとのことです.また全インシデントの1%は患者に何らかの処置を要し,かつそれによる永続的な後遺症がみられるもの,すなわちレベル3b以上となるという統計もあります.概算すると,1,000床規模の病院では,毎年5,000~6,000件のインシデントがあり,少なくとも50件程度が3b以上となりますが,もちろんこれには処置や手術の合併症とみなされるものもありますので,医療事故とされ事故対応委員会や調査委員会などで検討されるのはその半数以下です.全国の大学病院での医療事故の実態は,おおむねこの数字に近いものと思われ,レベル0~2程度のインシデント報告をさらに増加させて全職員に個々の医療行為に潜むリスクを認識させ,大きな事故となる芽をいかに摘むことができるかが,各施設の医療安全管理部の重要な役割でしょう.
多くの施設で問題とされているのは,看護師やその他のコメディカルに比べると医師からの報告件数が少なく,同一例がまず看護師などから報告されたのちに,指摘を受けて初めて医師からの報告が出ることも珍しくないことです.インシデント報告に関しては医師は過小評価するきらいがあり,また多忙なこともあって,レベル3a以下の報告が医師から出ることが少ない現状があります.しかし他科の問題事例をみていると,医師あるいは診療科が偶発合併症と判断した例でも,患者からはミスと捉えられることも増えており,その中には早期から医療安全管理部に報告して対応策を立てておけばよかったと考えられるものも含まれています.
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