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はじめに
肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)は,静脈系の血管内に形成された血栓が遊離して肺動脈を閉塞する疾患である.急性広汎性PTEの大部分は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)からの血栓遊離が原因である1).PTE患者の60%以上にDVTが発見され,逆にDVT患者の70%以上に無症状のPTEが見つかることから,DVTとPTEを分けずに静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)と呼ばれている2).
PTEは一端発症するとその死亡率は14%で,特にショックを伴う重症例では30%になる予後不良の疾患である3).PTEは手術(特に下肢・骨盤内手術),悪性腫瘍,妊娠,帝王切開などが契機に起こることが多く,産婦人科領域でその発生頻度が高い疾患である1).これまで,欧米との比較ではわが国ではPTEは発生頻度が低い疾患とされていたが,最近の報告では確実に増加していることがわかってきた.PTEの発生頻度は1996年では推定3,500人/年であったが4),2006年には7,900人/年となり10年間で倍増している5).周術期に限ってみても,日本麻酔科学会の「周術期肺血栓塞栓症調査」(JAS調査)によれば2002年および2003年における手術例に対するPTEの発症数は4.6例/1万手術,死亡数は0.8例/1万件である6).さらに,左近らは国内の前向き多施設共同疫学研究において,腹部外科手術後に173例中24例(24.3%),約4人に1人がVTEを発症していたと報告した7).
周術期においてPTEは,(1)一端発症すると予後不良の疾患であること,(2)PTEの原因となるDVTは臨床症状に乏しく早期発見が困難であること,(3)VTEの予防は費用対効果に優れることなどの理由により,その発症予防が重要である8).産婦人科領域での周術期のVTE予防の対象となるのは,産科手術(主に帝王切開術)と婦人科手術がある.産科領域でのVTE予防については,本特集の別稿を参照していただきたい.本稿では,主に婦人科手術におけるVTE予防法について述べることにする.
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