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はじめに
胎児心拍数モニタリングは,胎児管理そして分娩管理上,欠くことのできない診断法となっている.しかしながら,そしてある意味で不思議なことに,開発以来数十年を経た現在に至っても,その評価法は確立しているとはいえず,新たな定義が提唱されるなどの事態が生じている.その背景には,同一の記録に対する評価が判読者間で異なり,どちらが正しいかについて裁判で争われるようなことが稀ではないという現実がある.このことは,現在の評価法が再現性に欠けるものであるということを表していることにほかならない.これに対して,評価法そのものに問題があるのではなく,「皆が十分に理解していないから」とか「教育が足りないから」という声も耳にするが,そのような面があることは否めぬものの,適切な教育によりすべてが解決するとは考えがたい.
ここ数年,わが国では心拍数評価をめぐって,日本産科婦人科学会(日産婦)の見解とそれに反対する意見との間で論争が起っており,産科医の中にある種の混乱が生じている.この論争は無意味なものではなく,本検査法に内在する問題点をあらためて見つめなおし,あるべき姿を模索するよい機会になるだろう.また,脳障害の成因に関する検討の中でpHが7.0以下であることが問題とされるようになり,7.20あるいは7.15以下をアシドーシスとして胎児管理の目標値として用いていた従来の考え方に若干の変化が生じている.そうなると,心拍数に対する見方も変化してくる.本当に悪いパターンが出る前に児が娩出されればよいのであって,pHが7.20前後と推定される心拍パターンは,従来ほどの重要性を持たなくなってくる.このような状況を視野に置きながら,胎児心拍数モニタリングの現状と問題点について,考えてみたい.
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