今月の臨床 ハイリスク妊娠─ここがチェックポイント
妊娠のリスク診断と管理の実際
2.妊娠中・後期のチェックポイント 3)静脈血栓症のリスク評価と管理
小林 隆夫
1
1県西部浜松医療センター
pp.1397-1403
発行日 2010年10月10日
Published Date 2010/10/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102478
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はじめに
静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism : VTE)はこれまでわが国では比較的稀であるとされていたが,生活習慣の欧米化などに伴い近年急速に増加している1).血栓症で臨床的に問題となるのは,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis : DVT)とそれに起因する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism : PTE)である.PTEはDVTの一部に発症する疾患であるが,一度発症するとその症状は重篤であり致命的となるので,急速な対処が必要となる.妊娠中は,(1)血液凝固能亢進,線溶能低下,血小板活性化,プロテインS活性低下,(2)女性ホルモンの静脈平滑筋弛緩作用,(3)増大した妊娠子宮による腸骨静脈・下大静脈の圧迫,(4)帝王切開などの手術操作による総腸骨静脈領域の血管内皮障害および術後の臥床による血液うっ滞,などの理由でVTEが生じやすくなっている.日本産婦人科・新生児血液学会が行った全国調査2, 3)でも,妊娠初期と後半期および産褥期に3相性のピークを示しているが,21世紀になってからは妊娠中発症が増加している.特に,妊娠初期の発症が大きい理由は,エストロゲンによる血液凝固因子の増加,重症妊娠悪阻による脱水と安静臥床,さらには先天性凝固阻止因子異常の顕生化などが考えられる.
本稿では,産科領域におけるVTEの予防と対策について解説する.
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