今月の臨床 母体救命搬送
【救急搬送のタイミングと応急処置】
1.緊急に救命処置が必要な産科疾患
4)羊水塞栓症および肺血栓塞栓症
金山 尚裕
1
,
平井 久也
1
1浜松医科大学産婦人科
pp.27-31
発行日 2010年1月10日
Published Date 2010/1/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409102251
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羊水塞栓症
羊水塞栓症は,羊水が母体血中へ流入することによって引き起こされる「肺毛細管の閉塞を原因とする肺高血圧症と,それによる呼吸循環障害」を病態とする疾患である.本症の発症頻度は以前,約2万~8万分娩に対し1例程度と考えられていたが,最近ではニアミス例が多いこと,後述する分娩後のDIC・弛緩出血に羊水塞栓症が含まれる例があることより,実際の頻度はもっと高いことが指摘されている.事実,本邦で平成元年~16年までの間に193例が妊産婦死亡で病理解剖されたが,そのなかで羊水塞栓症が24.3%と第1位であった1).近年,羊水塞栓症は妊婦が死亡する最も頻度の高い疾患といえよう.
本症は,羊水中の胎児成分(胎便,扁平上皮細胞,毳毛,胎脂,ムチンなど)と液性成分(胎便中のプロテアーゼ,組織トロンボプラスチンなど)が母体循環に流入することにより発症すると考えられている2).卵膜の断裂部位より羊水成分が卵膜外漏出し,子宮筋の裂傷部位や子宮内腔に露出した破綻血管から母体循環系へ入るとされている.流入した羊水成分は,胎児成分が肺をはじめとした母体血管の小血管に機械的閉塞をきたす場合と羊水の液性成分が,アレルギー反応を起こし肺血管の攣縮,血小板・白血球・補体の活性化をきたす3).前者によるものは意外と少なく,後者の機序が多いと考えられている.
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