連載 FOCUS
羊水塞栓症
金山 尚裕
1
1浜松医科大学産婦人科
pp.236-244
発行日 2015年3月10日
Published Date 2015/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409208218
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はじめに
羊水塞栓症は日本における妊産婦死亡の最大の原因であることが種々の調査で明らかになっている1).妊産婦死亡は当事者にとっては大変ショッキングなことであり,係争にも発展しやすく,社会的にも大きな問題である.羊水塞栓症は,羊水が母体血中へ流入することによって引き起こされる「肺毛細管の閉塞を原因とする肺高血圧症と,それによる呼吸循環障害」を病態とする疾患である.本症の発症頻度は以前,約2〜8万分娩に対し1例程度と考えられていたが,最近ではニアミス例が多いこと,後述する分娩後のDIC・弛緩出血に羊水塞栓症が含まれる例があることから,実際の頻度はもっと高いことが指摘されている1).
羊水塞栓症発症のリスクとして羊水成分が母体血中に流入しやすい状況が考えられる.具体的な因子としては羊水穿刺・人工羊水注入・多胎・分娩時裂傷・瘢痕子宮・分娩誘発・帝王切開・前置胎盤などが挙げられる.2010年の英国の報告では,分娩誘発がオッズ比3.86,多胎妊娠10.9,帝王切開8.84と高くなっている.浜松医科大学は日本産婦人科医会の委託を受けて羊水塞栓症の血清診断事業を行っているが,2010年に臨床的羊水塞栓症と診断された中で誘発分娩または帝王切開が羊水塞栓症全例の6割強であった.
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