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はじめに
通常,妊娠中の血液凝固能は非妊娠時に比べ亢進状態にある.循環血液量が最大で40~45%,非妊時より増加するにもかかわらず,第XI,XIII因子を除くすべての凝固因子濃度は増加する.特に,フィブリノゲン濃度は約1.5倍と著増する.一方,妊娠中の線溶能は非妊娠時に比べて抑制状態にある.プラスミノゲンは増加するがプラスミン活性は低下する.したがって,妊娠中は凝固亢進による過凝固傾向と,それに引き続く消費性の凝固障害が起こりやすい環境であるといえる1).
妊娠中もしくは分娩前後に発症したDIC(産科DIC)は,非妊娠時に発症したものと比べ短時間で著しい消費性凝固障害と線溶亢進をきたし,より早急な治療介入が必要とされる.産科DICの最も大切な臨床的特徴としては,産科基礎疾患2)(表1)がDIC発症に密接に関連している点であり,その多くは急性で突発的に起こる.重症例では腎不全などの臓器症状を合併することが多いが,発症後早期に抗DIC治療を開始できた場合は比較的予後が良好であるとされている.したがって,すべての検査成績を待ってから治療を開始したのでは手遅れとなる可能性・危険性が高く,早期に処置や治療を開始していかなければならない.できるだけ早くDICの治療を開始するため,臨床所見を重視した診断基準として1985年に真木・寺尾・池ノ上によって産科DICスコアが提唱された(表2).スコアが8点以上となったら産科DICと診断し,早急に抗DIC治療を開始する.
産科DICの治療の基本は,基礎疾患の排除とDIC対策である.DICが進行すれば,出血性ショックに対する補液と濃厚赤血球の輸血,消費性凝固障害に対する新鮮凍結血漿や血小板の補充投与,それらに加えて酵素阻害療法が必要となる.酵素阻害療法として,最も有効なものはアンチトロンビンである.ほかにはメシル酸ガベキサートやメシル酸ナファモスタットが挙げられる.抗ショック作用の強いウリナスタチンも有効である1).
産科DICと関連性の高い代表的な基礎疾患として,常位胎盤早期剥離,DIC型後産期出血,羊水塞栓,重症妊娠高血圧症候群,死胎児症候群などが挙げられる2)(表1).本稿では主に常位胎盤早期剥離と死胎児症候群に関して詳述する.
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