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産科出血における周産期医療の役割
過去50年の日本の周産期統計の推移をみると,この50年間で日本の妊産婦死亡率は約1/30に減少した〈妊産婦10万対176(1950年)→6.5(2001年)〉.しかし,「死亡を免れたが,死亡し得た母体」は相当数存在すると想定される.この点を解明するために,久保らは,2004年分娩例について834施設に対し「妊産婦死亡を含めた重症管理妊産婦調査」を行った1).調査対象は以下の通りである.(1)妊産婦死亡,救命救急センターあるいは集中治療室管理,人工呼吸管理,(2)意識障害,ショック,2l以上の大量出血,輸血,救命のための子宮摘出,DIC,子癇,常位胎盤早期剥離,HELLP症候群,羊水塞栓,肺塞栓,子宮破裂,心不全・腎不全・肝不全・多臓器不全,脳出血・脳梗塞,敗血症・重症感染症.33.6%から有効回答が得られ,その結果,124,595名の分娩数(2004年の日本の全分娩の11.2%)に対して妊産婦死亡32名(2004年の日本の全妊産婦死亡の65.3%)が集計された.また,母体救命目的に緊急搬送された妊産婦は179例,同院あるいは他院のICU収容症例は202例,人工呼吸管理例は71例,延べ417例(0.3%)がきわめて重症であり,これ以外に上記対象(2)に該当する重症妊婦が2,859例(2.3%)みられた.2,859例から重複計上を除いた症例2,325例から,32例の母体死亡が発生していたことになる.すなわち,1人の妊産婦死亡の約73倍(2325÷32)の重症管理妊婦が存在したが,それら超重症妊婦のうちの約99%が救命されていたことになる.死に至る程の重症妊婦数は年間約4,500人と推定された.すなわち,妊婦250人に1人は死に至る重症疾患を合併すると計算された.このように,妊娠は非常にリスクの高い状態だが,周産期医療はそのような重症妊婦の多くを救命している.出血は重要な産科合併症である.妊産婦死亡で最も多かったのは産科出血であるが,分娩時大量出血により死亡したのはわずか4例(0.4%)であり,残りの多くの大出血妊婦は救命されていた.
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