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はじめに
卵巣癌の発生には,排卵に伴う卵巣表層上皮の損傷と修復が深く関与していると考えられている.排卵が中断されることなく数多く繰り返されることによって,卵巣表層上皮の遺伝子変異をきたし,悪性化につながっていくと考えられている.これは経口避妊薬の使用や妊娠・授乳によって排卵が抑制された婦人では,卵巣癌の発生頻度が低いという疫学的観察により支持されている.また過剰なゴナドトロピン分泌,高いエストロゲン濃度も,卵巣表層上皮の増殖をもたらし癌化に関与しているものと考えられている.
孤発性卵巣癌症例においては,がん遺伝子であるHER 2,c─myc,K─ras,Akt,がん抑制遺伝子であるp53のmutationやoverexpressionがしばしば認められる1~3).またがん抑制遺伝子であるPTEN,p16の不活化もみられ,最近ではエピジェネティックな現象も関与していると報告されている4).一方,家族性卵巣癌においては,BRCA1,BRCA2そしてほかの遺伝子のgermline mutationが,癌化に深くかかわっていると考えられている.しかし,卵巣癌の前癌病変はいまだに特定されておらず,癌に至る機序についてもほとんど解明されていない.そのため,有効な検診法や早期診断法が確立されておらず,患者の大半はIII期以上の進行がんで発見されるという現実がある.これは検診による早期発見・早期治療により死亡率の減少がはかられ,さらにHPVワクチンも実用化されている子宮頸癌の状況と対照的であるともいえる.
日本の合計特殊出生率は,1930年には4.7人であったが,1965年に2.1人,1975年からは2を割り,2007年には1.3人まで減少している.また,国勢調査のデータによると,女性の生涯未婚率は,1965年が2.5%であったものが,1975年には4.3%,2005年には7.3%まで上昇している.このような本邦における少子化,晩婚化,未婚者の増加といった社会的背景,そして高齢化もまた卵巣癌の増加に関連していると考えられる.本稿では,本邦における卵巣癌の疫学的情報,そして卵巣癌のリスク因子について解説する.
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