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はじめに
ホルモン補充療法(HRT)は,更年期不定愁訴のうちホットフラッシュに代表される血管運動神経障害の改善と,エストロゲン欠落による不顕性の身体変化に対応するという2面性をもつ.特に後者のほうが,女性の中高年期におけるQOLの点から重要であると考えられている.HRTは閉経後早期に開始されることが望ましく,60歳以降から開始することにより有益事象より有害事象の発生が増える可能性についても示唆されている.
これらのことは,HRTによる認知症,特にアルツハイマー型認知症病(アルツハイマー病 : AD)の発症抑制,すなわち予防的な面からもエビデンスが得られている.
ADの発症には性差があり女性のほうが男性に比べて3倍ほど,その発症が高いといわれている.そのため閉経後のエストロゲンの欠落とAD発症の関連が注目されるようになった.基礎的にはエストロゲンが神経細胞保護や脳機能維持に働くことを示唆する所見が多数報告され(表1)1),疫学的にも閉経後エストロゲンの投薬を受けた女性のほうが,受けなかった女性に比べて有意にAD発症が少ないことが示された.1986年の報告以来,エストロゲンがAD治療にも有効であると考えられるようになった(表2a).実際にHRTをAD女性に試みた報告も多く,当初のオープントライアル試験では有効性を示唆するものであったが,近年二重盲検試験で相次いでその有効性が否定された(表2b)1).現在ではHRTのAD女性に対する効果は疑問視されており,HRTはADの治療には足りえないというのがほぼ確立されたコンセンサスである.
わが国では現在約150万人の認知症患者がいると推定されており,そのうちの60万から70万人はADであるといわれている.高齢化の進むわが国では認知症患者がますます増加し2015年には250万人になると推定され,社会的にも非常に重要視されている問題である.認知症はいったん発症してしまうと退行性の疾患であり,有効な治療が存在せず,本人ばかりか介護者にまで精神,身体的な負担に止まらず多大な経済的負担をももたらす.したがって,可能なかぎり認知症を予防し,発症年齢を少しでも遅らせることが重要である.本稿では,主にHRTのADに対する予防的効果について検証する.
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