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はじめに
痴呆は,今や高齢化の進行している先進諸国においては深刻な社会問題となっており,本稿のテーマである痴呆の予防には,今後ますます関心が寄せられるであろう.痴呆の予防という,一見婦人科にとっては無縁の領域にどのように関与すべきであるのか.閉経後女性におけるホルモン補充療法(HRT)を通じて検討する.近年,有害事象のほうばかりに着目されがちなHRTであるが,こと痴呆の予防に関しては,基礎的にも臨床疫学的にも数多の有力なエビデンスが蓄積している.もちろん,現状では痴呆の予防ためだけにHRTを行うことについてコンセンサスが得られているわけではないが,HRTを中高年女性のヘルスケアに上手に利用することで,必ず痴呆の予防につながると筆者らは信じている.
痴呆の大半を占め有名なのが脳血管性痴呆,アルツハイマー病である.痴呆は退行性に症状や病態の悪化をきたし,有効な治療法もないため,予防に重点が置かれる.脳血管性痴呆は動脈硬化,血栓による脳虚血が神経細胞死をもたらすものである.ADは多くの因子が重なって発症するものと考えられ,脳血管性痴呆と同様に脳血管性障害による脳虚血もその一因と考えられる.病理組織学的所見からは,アミロイドの過剰沈着が重視されている.アミロイド斑は神経細胞毒性を有する.アミロイドの過剰沈着をきたす原因として,presenilin─I,II,apolipoproteinee4などの遺伝因子や,アストロサイトの貪食能低下など免疫系の関与も考えられている.いずれにしても,血管障害をきたす高血圧,高脂肪血症,糖尿病(DM),肥満に注意し,喫煙しないようにすることが痴呆の予防につながると考えられる.ADに関しては,原因が明でないため有効な予防手段が講じられていない.
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