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[1]はじめに
腟内に射精された精子には,運動性はあるが,受精能力はまだない.子宮頸管,子宮内腔,卵管を上昇していく過程で,精漿が除去され,受精能力を獲得していく.精子が受精能力を得る過程は,capacitationとして知られ,精子細胞膜の流動性を増加させるコレステロールの喪失や,活性酸素の産生などが引き金となって,一連の精子細胞表面および細胞内の変化が起こる.受精能力を獲得した精子は,zona pellucida蛋白と接触することによって先体反応を引き起こし,透明帯を通過し,卵黄膜と融合することが可能になる.また,精子はcapacitationと同時に,精子運動パターンの変化,hyperactivationを起こす.この運動性の変化は,精子が透明帯を通過するために必要な動きであるとされている1, 2).これらの変化は,精子が卵子と出会う適切なタイミングで起こらないと,精子は死んでしまい受精に関与できない.
人工授精の目的は,受精の場である卵管膨大部により多くの運動良好精子を無菌的(安全に)に送り込むことであるので,精子を濃縮し,運動良好精子を回収し,不要物を除去する目的で基本的には,精子は処理してから,注入される.また,精子は精漿と分離することで,capacitationを起こしやすくなり,引き続く先体反応が起こりやすくなるので,受精を促すことになる.精液を調整することによって,受精能を獲得した精子の受精能力を有する期間はいまだ明らかにされていないが,10数時間とも2,3日ともいわれている.
理想的な精子処理法としては,短時間で処理が可能,簡便,安価,運動精子が多く回収できること,精子DNAや細胞膜に傷害を与えないこと,死滅精子,白血球,細菌を取り除くこと,decapacitation factorやreactive oxygen species(ROS)を取り除くことなどが挙げられる.運動性が良好な精子は,運動能以外の機能,すなわち先体反応,hyperactivationなどの機能も高く妊孕性が高いと考えられている.運動性が高い精子ほどICSIでの受精率が高いこと3),運動性が低い精子ほどmtDNAの断片化が多いこと4),精子DNAの断片化が多いこと5)が報告されている.運動性の高い精子ほど,受精能の高い精子といえるので,運動性の高い精子を回収することが重要である.
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