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はじめに
子宮内膜症は生殖可能な女性の約10%に発生し,月経困難症,骨盤痛,さらに不妊症の大きな原因の1つになっている.子宮内膜症による妊孕能低下の機序としては,(1)卵巣卵管周囲の癒着による解剖学的異常(卵子のキャッチアップ障害),(2)卵巣子宮内膜症性嚢胞による正常卵巣組織の線維化や過伸展,(3)病巣から分泌されるサイトカインやマクロファージによる受精卵や子宮内環境への悪影響など多岐にわたると考えられている.子宮内膜症による不妊に対しては,一定の治療指針はなく,ある施設ではIVF─ETや卵巣チョコレート嚢胞に対する経腟エタノール固定を先行させたり,また別の施設では開腹手術や腹腔鏡下手術を施行したりするなど,施設による治療方針の差が大きい.
なかでも,卵巣チョコレート嚢胞は子宮内膜症患者の17~44%に存在するといわれており1, 2),不妊症例における取り扱いには苦慮することが多い.この卵巣チョコレート嚢胞に対する保存手術としては,腹腔鏡下嚢胞核出術が一般的になっており,再発や妊娠率の観点からも卵巣チョコレート嚢胞の凝固処置よりも有効とする報告3, 4)がみられる.しかし,その一方でIVF施行時の採卵数が減少するとの報告5)や腹腔鏡下嚢胞核出術が原始卵胞の消失や卵巣間質の障害をきたす可能性を示唆する報告6)もみられる.
以上のような背景のもと,当科ではこのような問題点の打開策として,200倍希釈バソプレッシンを卵巣チョコレート嚢胞壁と正常卵巣組織との間隙に局注することで,正常卵巣により愛護的な手技をもって嚢胞を核出する術式の開発を進めてきた7, 8).
また,子宮内膜症では子宮内膜上皮細胞,間質細胞が正常組織のなかへと浸潤し,月経のたびに出血や炎症を繰り返し,組織の線維化や癒着が引き起こされる.重症例になると解剖学的構造は大きくゆがみ,手術操作時には誤解が生じやすく,他臓器の損傷リスクも高くなる.妊孕能を回復させるためには,できるだけ精細な手術操作により,正常組織を傷つけず子宮内膜症病変だけを切除もしくは焼灼しなければならない.
腹腔鏡下手術では骨盤内を拡大して観察することができるため,微細な操作を行うのに適している.また,鉗子などの径が細いため,十分なスペースが確保されないような場合でも狭いところでの手術操作が可能であり,アクセスの点でも開腹手術よりも有利な手法と考えられる.本稿では,卵巣チョコレート嚢胞の核出手技7, 8)と子宮内膜症病変切除に対するmicrosurgical approach 9~11)を中心に,当科で行っている腹腔鏡下手術手技について述べる.
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