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1 診療の概説
血中総コレステロール(TC)濃度は,妊娠すると非妊時の約50~60%程度増加する1).これはvery low―density lipoprotein(VLDL),high―density lipoprotein(HDL),low―density lipoprotein(LDL)粒子数が増えるので,各リポ蛋白内に含有するコレステロール濃度の総和が増加するためである1).トリグリセライド(TG)も妊娠末期には生理学的に約200~300%程度増加する1).TG濃度の上昇はTG―richなVLDL粒子の増加に起因するといわれている.妊娠中にみられる生理学的高脂血症の状態は理論的には動脈硬化に促進的とも考えられるが,実際に妊娠,分娩を繰り返すことで心血管疾患の発症が増加するとの報告はない.しかし,TCやTG濃度がきわめて高値の場合,例えば家族性高コレステロール血症あるいは家族性複合型高脂血症の患者が妊娠した場合は脂質濃度はさらに増加し,心血管イベントや急性膵炎を発生するおそれがある.
家族性高コレステロール血症は常染色体優性遺伝のLDL受容体異常症であり,LDLの代謝異常によりLDLが血中にうっ滞する.両親より異常遺伝子を受け取ったホモ型患者は約100万人に1人ときわめて稀で,TCが500 mg/dl以上と異常高値を示し,通常20歳までに心筋梗塞を発症する.両親の一方より異常遺伝子を受け取ったヘテロ型患者は500人に1人の頻度で,TCが300~500 mg/dlと高いことが多いが,260 mg/dl以下のこともある.TCは出生後から高値であり,壮年期に冠動脈疾患を発症することが多い.
家族性複合型高脂血症は200~300人に1人の頻度で発症し,TCの上昇は思春期以後と遅いが,冠動脈疾患は壮年期から老年期に発症することが多い.本症の特徴は表現型がIIa,IIb,IV型と変化することがあり,家族性高コレステロール血症にみられる腱黄色腫のような特異的所見に乏しいので,診断が容易でないことがある.診断基準を表1に示す.
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