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1 診療の概説
流産の定義は「妊娠22週未満の分娩」であるが,妊娠初期の流産と中期の流産とは病名は同じでも病態は大きく異なる.すなわち,それらは別の疾患といってもよい.
妊娠初期の流産は10~20%と高い頻度でみられ,そのほとんどは胎芽の発生をみないか,胎芽の形成が異常で心拍動を生じない,あるいは一時的に心拍動を認めるが,その後停止し,胎芽死亡となるものである.これらの胎芽死亡はほぼ妊娠12週までに明らかとなる.これら妊娠初期の流産の原因の多く(50%以上)は胎芽の染色体異常であることが知られている.最近の報告では,70%以上に染色体異常が確認されたという.したがって,基本的に妊娠後にこれらの初期流産を予防したり,流産とならぬように治療したりすることはできない.正常妊娠であるか,胎芽死亡であるかを進行流産の大出血や疼痛の起こる前に診断することが産婦人科医の役割となる.ホルモン分泌異常や不育症の一部などが初期流産予防や治療の対象となる.
これに対して,初期流産の症例が脱落したあとまで発育を続けている妊娠例の多くは正常妊娠であり,いわゆる後期流産の頻度は低い.もちろんその一部には初期流産と同様に染色体異常などの胎児異常による胎児死亡が含まれるが,異常の程度が軽いために,12週以降まで生存したあとに胎児死亡となるものと考えられる.また,不育症の一部もこの時期に胎児死亡,流産となるものがあり,抗リン脂質抗体症候群をはじめ,不育症の原因検索と,可能なものはそれらに対する対策を立てる必要がある.
流産の主な症状は子宮出血と子宮収縮による痛みである.多くの後期流産には,やはり子宮出血が伴う.子宮内に絨毛膜下血腫が生じることも多い.胎盤の形成過程で生じる出血が局所で吸収されずに絨毛膜下に貯留したものといわれ,感染とのかかわりがないものは予後良好であり,血腫はいずれ吸収され消失する.これに対して,子宮内に感染が存在すると予後は不良である.感染は必ずしも流産前に証明することはできないが,絨毛膜下血腫はむしろ伴わないこともあり,炎症により少量の子宮出血と子宮収縮を繰り返す.子宮収縮は当初それほど強くなく,収縮抑制剤で抑えるのは難しくない.しかし,子宮出血を繰り返し,ひとたび強い収縮となると抑制困難で破水を伴うことも多く,胎児は生存していても分娩に至る.
後期流産の頻度は高くないが,このような例が後期流産には多く,感染の存在が強くうかがえる.胎盤,卵膜の病理組織検査では炎症所見が証明される.
もう1つの主要症状である子宮収縮についてみれば,切迫早産に比べると子宮収縮のみが前面に出る例は少ないが,後期の切迫流産には切迫早産が早い時期に起こったもの,すなわち切迫早産と同じ病態であるものが含まれていると考えられる.切迫早産と同様に,基本的に安静を指示する.
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