今月の臨床 妊娠と免疫
妊娠維持の免疫機構
3.子宮局所免疫細胞の特長
川口 里恵
1,2
,
小澤 真帆
1
,
早川 智
2
,
田中 忠夫
1
1東京慈恵会医科大学産婦人科
2日本大学医学部産婦人科
pp.1022-1029
発行日 2003年8月10日
Published Date 2003/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100852
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はじめに
妊娠現象とはsemi―allograftである胎児が一定期間子宮内に育まれ,しかも急激な成長を遂げこの世に生を受けることである.脊椎動物は軟骨魚類以降特異的な免疫能を獲得し,特に真胎生を行う哺乳類ではsemi―allograftである胎児の母体内生着のためには高度に発達した免疫系をコントロールする必要が生じる.1953年,イギリスの免疫学者Medawar1)は胎児との共存は免疫遺伝学的にきわめて特異的な現象であると指摘し,その機序として有名な仮説を提唱した.すなわち,①胎児の抗原未熟性,②子宮の免疫学的特殊性,③母体免疫能の低下,④胎盤による解剖学的,免疫学的バリアである.これらの仮説は現在ではいずれも否定されているが,生殖免疫学という学問領域を方向づけるうえで画期的な問題提起となった.
1982年にLala2)は,はじめて子宮内免疫担当細胞の由来につき言及し,マウスキメラを用いた実験にて脱落膜細胞の一部は骨髄細胞に由来とするとした.骨髄に由来する未熟な前駆細胞は妊娠成立と同時に末梢血から子宮へと急速かつ大量に動員され,脱落膜反応に伴って分化すると考えられる.
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