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はじめに
胎児は無菌状態の子宮内で発育するため,未熟な免疫能であっても,感染することはない.ただし,分娩後は外来微生物に曝されることとなるので,胎児も子宮内で徐々に免疫系を発達させると同時に,母体も積極的に免疫グロブリンを胎児に輸送し,免疫能を補完し,出生後の感染を防御している.しかし早産児では,これらの準備が不十分なまま出生することになり,きわめて易感染性となる.おまけに,早産の大半は炎症によって起こり,また細菌感染を合併していることも多い.したがって,早産児の感染には十分に注意を払う必要がある.事実,新生児医療の進歩に伴い新生児死亡率が大きく改善したが,出産体重1,000 g未満の児における感染症の死亡は増加しており,出産体重500 g以上1,000 g未満児の死因の14.5%を占める.これは奇形の14.7%に次ぐものであり1),新生児医療における感染症対策が求められてきている.
新生児は分娩後に哺乳することで未熟な免疫能を補っている.すなわち,母乳中には大量のIgAが含まれており,このIgAが児の粘膜免疫に役立っている.また最近になり,母乳中に含まれているサイトカインが児の免疫能を高めることもわかってきた.母乳哺育の推進は,新生児感染防御にとって非常に有益となる.
本稿では,胎児の免疫能を理解するとともに,母体の免疫学的支援機構について解説する.また最後に,胎児炎症反応症候群についても解説する.未熟な児は免疫能が劣っているが,炎症性サイトカインの産生は低下しておらず,消炎性のサイトカイン産生が低下しており,炎症が遷延しやすい.過剰な炎症は組織傷害を引き起こし,脳性麻痺や慢性肺炎疾患,壊死性腸炎の原因となる.これらの児の炎症を制御する必要性が生じてきている.本稿ではこの点についても延べてみたい.
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