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はじめに
子宮内膜症とは子宮内膜様組織が子宮外で生着・発育して,月経と同時に出血することにより卵巣チョコレート嚢胞や腹膜癒着を形成すると考えられている.臨床的には妊孕能の低下や月経痛,性交痛などの疼痛症状を伴うことが問題となり,治療の対象となる.子宮内膜症における不妊原因として,重症例では子宮内膜症による炎症や癒着のため卵管や卵巣が障害されるために妊孕性の低下が起こることは容易に予想され,一般的に容認されている.一方,軽症例では子宮内膜症が直接妊孕性の低下の原因なのか,他の隠された病因を反映しているのかは判然としない.また,子宮内膜症の治療は年齢,不妊期間,治療歴および疼痛症状の有無を考慮する必要があり,患者の希望が最も重要視されて選択される.
近年,個々の患者の問題点を質の高い臨床研究で得られた情報に基づいて臨床判断を行うEBM(evidence―based medicine)を日常診療に取り入れようとする傾向が広まってきた.EBMの定義は“個々の患者のケアについて決断を下す際に,臨床研究から得られた現時点での最良の証拠を,細心にかつ思慮深く用いていくことである”とされている.すなわち,EBMは病態生理や経験を主な根拠として診療上の意志決定を行っていた従来の医療に,質の高い臨床研究で得られた情報に基づいて臨床判断を行う方法論を提供するものである.一方,病態生理や経験といったものを否定しているような印象や患者不在のマニュアル的で画一化された医療が行われるとの誤解も生まれた.そこで,EBMの定義の変更がなされ,すなわち,EBMとは臨床技能,そして患者の価値観に最良の根拠を結合したものであり,患者中心の臨床研究を“最良の証拠”とするものである.本稿ではEBMに基づいて,不妊症を合併する子宮内膜症の治療法の選択を考察してみた.
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