今月の臨床 性差医療
中枢性疾患と性差
1. うつ病と身体症状の性差
久保 千春
1
1九州大学大学院医学研究院心身医学
pp.836-839
発行日 2006年6月10日
Published Date 2006/6/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409100721
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はじめに
うつ病については,精神疾患の分類と診断の手引(DSM─IV)で示されている大うつ病のような典型的なうつ病のほかに,主に身体症状を呈していたり,あるいはほかの身体疾患に潜在しているうつ病が少なからずある.したがって,うつ病を広く認識するためには,典型的な診断基準を当てはめるだけでなく,うつ病に特徴的な身体症状を目安にする必要性がある.プライマリ・ケア施設におけるうつ病の罹患率は4.2~6.9%1,2)と高く,そのうちの30~50%もの割合で見逃されている3)という.また,近年専門分化が進んだ生物的医学のため,患者自身が受診科に特有な身体症状しか訴えないことや,うつ病の軽症化,身体化が進み,精神科医や心療内科医でも診断困難なうつ病が増えていることが挙げられる.実際,14か国のうつ病患者を対象とした大規模調査4)で,身体症状しか訴えないうつ病患者の割合が69%にも達していたことが報告されている.
ところで,うつ病における身体症状は,うつ病で生じる自律神経の機能障害とうつ病にもとづく心理的な苦悩を表現する身体言語としての症状が主な構成因子と考えられる.さらに,うつ病患者は,自分がうつ病であることのスティグマのために精神症状を表現できず,身体症状でその苦悩を医療機関に訴えて助けを求めるという側面もある.病識がないうつ病患者の場合には,本当に「身体疾患」であると考えて身体症状のみを執拗に訴え続ける場合もある.以上のような理由から,うつ病に特徴的な身体症状を知ることは,実際の診療におけるうつ病の認識の可能性を広げ,治療の機会を増やすことになると考えられる.
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