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はじめに
近年,わが国においては高齢化社会が進み,更年期女性のQOLにかかわる病態として尿失禁が問題とされてきている.しかし,この問題に関する要因は決して高齢化に関するもののみではない.最近の報告にみられる尿失禁の発生に関する疫学調査では,単に婦人の高年齢や肥満のみならず,分娩の態様をも要因として分娩をきっかけとして比較的若年の婦人にも尿失禁が発生していることが報告されている1, 2).事実,われわれの経験する日常の臨床においても,100 kgを超える体重のご婦人に遭遇する機会が増えており,これらは30年前には滅多に経験しなかったことであり,わが国における食生活の変化が実感される.このような現象を見る限り,米国をはじめとする諸外国にみられる排尿障害に関する議論と,わが国における議論とはようやく同じ土俵で議論がかみ合う時代が到来したというべきであろう.
本稿では,与えられたテーマである尿失禁の薬物療法について実際の診療に則して具体的に述べる.
尿失禁は,腹圧性尿失禁,切迫性尿失禁といくつかの種類に分類でき,発生頻度や治療法も尿失禁のタイプにより異なる3).尿失禁のなかでは腹圧性尿失禁が約半数を占め,切迫性尿失禁との混合型を含めると約70%となる4).
多数を占める腹圧性尿失禁に対して薬物療法は,理学療法や手術療法の補助的な治療と位置づけられるが,即効性があり,低侵襲であることから,患者のQOLの向上のためには積極的に行うべき治療法と考えられる.また切迫性尿失禁の治療は薬物療法が有効であり,第一選択となる.混合性尿失禁は腹圧性と切迫性の両因子の混合したものであるが,まず切迫性尿失禁の治療を行い,加えて腹圧性尿失禁の治療を行う.
薬物療法の実施に際しては,その薬物の治療効果を厳密に判定し,治療に抵抗する場合には,治療方法の再検討を行う必要がある.
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