視座
生体と人工材料のなじみ
桜井 実
1
1東北大学
pp.1399
発行日 1988年12月25日
Published Date 1988/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408907988
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人工臓器とまでは言えないが,人工関節,人工骨など,代用組織としての材料の開発が目白押しである.しかし,人間が造り出した物質以外の材料を用いて,我々は従来から何の不思議もなく手術を経験してきた.絹糸がその1つである.これは蚕が作り出したcollagenに類似するsericinという高分子蛋白である.生体にはこれを分解する酵素がないために,長年の間異物反応もなく生体組織に親和しているといわれるが,使用される量が微量なこともあってあまり炎症反応は起こさないのである.しかし,稀に手術標本に含まれている絹糸の周囲などに,細胞浸潤がみられることもある.少しずつ貪食細胞によって,絹糸が吸収されていくものと思われる.
骨芽細胞はcollagenを形成したところにhydroxyapatiteを沈着させて,いわゆる骨組織を形成するが,血流が遮断されて腐骨になったものも長年の間には吸収されていく現象がみられる.これも生体が造り出した高分子化合物ということができる.
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