視座
揺れ動く心の悩み
佐藤 孝三
1
1日本大学整形外科
pp.197
発行日 1976年3月25日
Published Date 1976/3/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408905319
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最近の新聞にアメリカで,長期間いわゆる植物人間として蘇生器によつて生かされている1女性の親が,スイッチを切つて自然死をさせてほしいと訴えた事件に対して,裁判所がそれを許さない判決を下したというニュースが報ぜられた.人間の生命の尊厳を意識する限り,この判決は正しかつたと思う.スイッチを切る単純な行動も,殺人に連なる以上は,誰しも簡単にできることではあるまい.
ところが,通常の状態ではそのスイッチを切れない人間達が,地球上のいたるところで,お互に殺傷をくりかえしてやむことがない.いつもどこかで戦争が行われ,どこかで内ゲバがおこり,どこかで刃傷沙汰がくりかえされている.そのときには,巻添えとなる犠牲者達を含めて,人間の生命の尊厳はまつたく無視されている.いや,生命というよりも,人間そのものが無視されているといえよう.
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