臨床経験
四肢の骨折,脱臼に伴う動脈損傷について
伊藤 維朗
1
,
東 博彦
1
,
立石 昭夫
1
,
曾我 恭一
1
Tadao ITO
1
1東京大学医学部整形外科学教室
pp.678-683
発行日 1972年8月25日
Published Date 1972/8/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904729
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はじめに
整形外科の日常診療において重篤な四肢循環障害に遭遇することは必ずしも稀ではないが,ほとんどは慢性経過をたどり,一刻を争う外科的処置を要するものは少ない.医原性疾患であるフォルクマン阻血性拘縮は病初において敏速な処置を要する循環障害であり,急性四肢循環障害の代表とされるが,通常,主要血管の再建手術を要する場合は稀である.
他方,交通事故による外傷の重篤化や,労働災害,スポーツ外傷などの増加に伴い.かつては市民生活上稀であつた骨折や脱臼に併発する重要血管損傷の患者が目立つて来つつある.この様な症例では初期治療が適切かつ迅速でなければならない.損傷が鈍的で皮膚の破綻がないと,血管損傷の発見がおくれ,処置が充分でないままに時間が経過し急性循環障害を進行せしめ,末梢組織の窒息による阻血性拘縮を残したり,肢を失うなど,高度の機能障害を残す場合がある.われわれは昭和41年以降,東大整形外科において四肢の骨折または脱臼に伴う重要血管損傷の患者を8例経験したので報告し,その診断および治療上の問題点を指摘するとともに,現在の技術レベルにおいて採用すべき治療原則を定める一助として,若干の議論を展開する.
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