論述
悪性腫瘍転移による骨折に対する骨セメントの利用
松崎 昭夫
1
Akio MATSUZAKI
1
1九州大学医学部整形外科学教室
pp.822-828
発行日 1970年11月25日
Published Date 1970/11/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904471
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悪性腫瘍の骨転移は原発巣に対する治療を困難にし,その症状を発現すると患者の苦痛を増し,また看護を困難にする.脊椎や骨盤などではかなり進行するまで症状が出ないこともあるが,長管骨の転移では早期に疼痛が起こり,また病的骨折を起こすことが稀でない.しかも四肢骨にあつては転移の大部分が大腿骨,上腕骨にあるため,病的骨折を起こすと患者の不自由さを増し,身体的にはもちろん,精神的にも悪い影響を与え,患者の余命にさえ影響を及ぼしてくる.これら悪性腫瘍転移による病的骨折は多いものではないが,その治療法の開発,改善はわれわれ整形外科医にとつて一つの課題である.私は1968年より1969年にかけてアレキサンダー・フォン・フンボルト財団の研究奨学生としてミュンヘン大学に留学中,骨セメントが股関節全置換以外にも種々の骨手術に利用され,病的骨折においてもAOの頑丈な内副子との併用で用いられていることを知り,またいくつかの経験をすることができた.帰国後,九大整形外科においても癌の転移による病的骨折に骨セメントを利用した骨接合術を行なう機会を得たが,骨セメントの利用により長管骨への悪性腫瘍転移,特に癌転移またはそれによる病的骨折の手術療法の適応範囲を従来より拡げ,手術成績も改善できるものと考え紹介するしだいである.
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