境界領域
細胞動態(cellular kinetics)の医学への導入のために
上野 陽里
1
Yori UENO
1
1京都大学医学部放射能基礎医学教室
pp.285-290
発行日 1969年4月25日
Published Date 1969/4/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408904061
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はじめに
およそ生物体は,一世代内あるいは世代から世代へと,常に自分を再生しつづけている.この経過は,言い換えれば,細胞が分裂し,新しい機能を得て働き,その一生を終えて消えていく経過である.そこには,たえまのない細胞の分裂と分化が存在するわけである.さらに,細胞の分裂と分化の間には,ある種の平衡関係が存在している.ある一種の細胞はある限られた分裂の後に分裂をとめて分化していく.あるいは,分裂をくりかえしながら少しづつ分化をとげていく.幹細胞といわれる細胞から末梢赤血球が生まれでてくる過程はこのよい例である.また,この分裂と分化の関係は固定されたものではなく,常に外部環境によつて左右されていることは,既に知られていることである.こうして,生体内の細胞はそれが何であれ,正常であるかぎり一定の安定状態(stable state)をたもつている.いわば,cellular homeostasisをたもつているわけである.
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