連載 運動器のサイエンス・16
慢性疼痛増加の機序を探る
半場 道子
1
1福島県立医科大学医学部整形外科学講座
pp.668-670
発行日 2015年7月25日
Published Date 2015/7/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408200270
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Mesolimbic dopamine systemが破綻すると痛みが拡がる
第15回では,快の情動系と呼ばれるmesolimbic dopamine systemと,下行性疼痛抑制系10)による中枢性疼痛抑制機構について述べた.生体が痛みという急性ストレスに襲われた時,dopamine & opioid systemが瞬時にこれに応答し,さまざまな神経系にpositive actionを起こしてストレスを乗り越えている.古い脳器官は,免疫系や自律神経系とも直結して,生存に適した根源的な活動を無意識下で展開している.
Mesolimbic dopamine systemは,社会性の発達したヒトでは,認知・思考機能に結びついて,「優越性の錯覚」の基盤も形成している6).自分の知能,技術や性格は,社会の中で一般より優れているか,自己評価と脳内dopamineの関係を調べた報告がある.謙虚を美徳とする日本でも,多くの人が「平均より上」にランク付けする12)が,優越の意識を持つとdopamine systemは活性化する.優越性の錯覚は精神の健康を保つうえで重要で,これによって人は己の可能性を信じ,希望や目標を持って未来を向くことができる.病者や慢性疼痛の患者からしばしば洩れる言葉,「自分は無力で無能で何もできない」,「みじめな自分」と対比して考えた時,dopamine systemが生きる意欲と喜び,快情動の形成に,いかに重要であるかあらためて実感される.
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