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東アフリカ・タンザニアのLaetoliで有名な英国の考古学者Mary Leakeyたちが原人の歩いた足跡を火山灰の化石の中から発見したのは1976年のことである(図1〜3).火山灰に含まれる放射性同位元素の測定から,およそ300〜400万年前の化石であることがわかったが,それはわれわれの祖先ホモ・サピエンス誕生のはるか以前のことになる.驚いたことに,足跡は完全な直立2足歩行の産物であって,ゴリラやチンパンジーの2足歩行とは全く違う.さらに言えば,強固な足根骨群と,その上にまっすぐのびる下腿骨—大腿骨,そして股関節によって体重を巧みに移動させる動作を完全にマスターしていたことを物語る.復元像(国立科学博物館作製)では武器と思われる棒を持たせているが(図4),これは上肢が独立した機能をすでに獲得していたという想定,さらに想像を逞しくすれば,互いに声を掛け合ったのではないかと思いたくなる光景……まさに人類学史上の大発見であった.
この生物をヒトの祖先とすべきか,あるいは原人というカテゴリーにとどめておくべきかという議論はさておき,ここでは股関節機能が直立2足歩行の要として,すでに数百万年前に完成していたという事実に注目しよう.完璧にみえる直立2足歩行の股関節が,われわれ同様にボールとソケットの構造を持っていたことは想像に難くない.ボールが大きすぎることも,ソケットが小さすぎることも考えにくい.もちろんわれわれの祖先が50歳を超えて生存できるようになったのは近代のことであるから,上記の足跡を残した生きものに関節症は起きていないはず.つまりLaetoliに足跡を残した生きものでは,堅固な骨頭が一定のクリアランス(股関節と骨頭の間げき=すき間)をもって寛骨臼の中を,滑らかに回転していたはずである.
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