書評
運動器の痛み診療ハンドブック―山下敏彦●編集
米延 策雄
1
1大阪南医療センター
pp.1201
発行日 2007年12月25日
Published Date 2007/12/25
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1408101184
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「人の痛みがわかる」.何気なく聞き流せば,もっともな慣用句である.しかし,アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』風に解説すれば,「医療従事者や政治家がしばしば口にする枕詞のひとつ.後ろに医療,教育あるいは政治などの言葉が続く.深い意味を持たない.マスコミ関係者は否定形を先の言葉に付け,罵りの意味を持たせる」とはならないか.感覚は生理学・解剖学の領域にあるが,知覚は精神・心理の領域にあり,したがって,「痛み」は極めて個人的であり,当然ながらわかり難い.それでも情緒の関係の中で,痛みの訴えを聞けば,それを傾聴し同情することで痛みをみる.しかし,医学の知識を持つわれわれは,痛みの訴えを解剖学,生理学の切り口からアプローチする.そして,ときにこのレベルで終わる.だが痛みを訴える患者は,検査を求めているのではなく,痛みに苦しんでいることをわかって欲しいのであり,ヘルニア摘出を求めているのではなく,手術をしてでも苦痛をなくして欲しいのである.
本書の編者はシュバイツァー博士の言葉“「痛み」は,人間にとって「死」そのものよりも恐ろしい重圧である”を引いて,痛みの治療の重要さを強調している.運動器疾患の症候の多くは「痛み」である.しかし,機能の評価に重きを置いて,計れない「痛み」をしばしば軽んじていることはないだろうか.『運動器の痛み診療ハンドブック』〔山下敏彦(編)南江堂〕は整形外科における痛みの診療,そして研究の重要さを深く認識した医師が設立した「整形外科痛みを語る会」のメンバーが中心となって執筆されたものである.
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