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北海道大学医学部精神医学教室第五代教授を務められた山下格名誉教授が2014年12月1日にご逝去されました。先生は本誌の編集委員を1985年から12年以上お務めになり,ご退任後も「継往開来」シリーズなどにたびたび玉稿をお寄せいただきました。「追悼文を精神医学に掲載するなんて,恥ずかしいから,いいよ」とおっしゃっておられるご尊顔とともに,お声が聞こえてくるようであり,奥様も同じことをおっしゃっておられました。何かあればいつでもご相談に乗っていただいた先生が亡くなられたと伝えられても,いつでもご相談できるような気がしていましたが,本年4月に札幌市中央区の閑静な住宅街にあるご自宅を弔問させていただき,ご遺影に接し,先生のご逝去を実感せざるを得ませんでした。先生は1929年(昭和4年)に札幌医大近くの官舎でお生まれになり,小学2年生からこのお宅で生活されたそうで,ご留学の2年間以外のご生涯の大半をこのお宅で過ごされて85歳のご生涯を閉じられました。北大精神科教授となられてからは,毎年正月に教室員をこのご自宅に招いてくださり,わたくしどもは,奥様やお母様の手料理のご接待をうけ,先生が国際学会やWHOの会議出席後に,海外で集めて来られた貴重なワインを堪能させていただいたものでありました。
山下先生は旧制高等学校にあたる北大予科入学時から精神分析の本を愛読され,1953年3月に北大医学部医学科をご卒業になられ,精神科医となられた後にも,ご自身で教育分析を受けられ,精神分析や精神療法に関心の重心がおありであったと伺っております。しかし,諏訪望教授の伝統的ドイツ精神病理学を学ばれて,重心が次第に移動し,当時の北大精神医学教室(以下,北大教室)の研究のメインテーマであった情動の精神内分泌学的な研究に従事され,抗精神病薬や抗うつ薬療法が及ぼす自律神経・内分泌機能への影響についても研究されました。1963年からの2年間,Psychoendocrinology(Grune & Stratton, London, 1958)の著者である,ニューヨーク州立ウイローブルック神経内分泌研究所のM. Reiss先生のもとに留学されましたが,コロンビア大学の精神分析研究所などに通って精神療法の研鑽を積む生活もしておられました。これらのご経歴からも,伝統的な精神医学を守りながら精神分析のよいところを取り入れられる一方,最先端の生物学的精神医学に絶えず目を向け,その成果を心理教育として分かりやすく伝える診療を,生涯究めてこられた先生の学問的基盤を窺い知ることができるかと存じます。
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