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昨今のメデイアで話題になっているものに外傷性頚部症候群がある.1960年代に東北大学医学部 飯野三郎教授のグループがこの病態に光をあてられ,むち打ち損傷として広く社会に公表された.その結果,数多くの臨床研究が行われ幾多の知見も明らかになった.筆者が卒業し入局した金沢大学でも昭和40年代に高瀬武平教授の指導で,むち打ち損傷患者の髄液圧測定や皮電図研究が数多く行われたとの歴史を先日改めて伺った(平成19年7月30日,石川県交通保険医協会).その結果は「髄液圧が低下するエヴィデンスは得られなかった」と言うことであった.外傷性頚部症候群のケベック分類ではグレード0~Ⅱに相当するものがいわゆるむち打ち損傷であるが,その呼称は不適切であるとして頚椎捻挫や外傷性頚部症候群として公文書に記載するのが一般的である.
外傷性頚部症候群は時に永続的あるいは時間軸で変移する多彩な病像を呈する.本邦においては年間20万人程もの人々が交通外傷や産業外傷などでこの傷病名を賦与されるとも言われている.病態の診断はケベック分類に則してなされることもあるが,実際の病状は決してそれに則しているわけではなく,病態の解析には整形外科学以外に神経精神医学,平衡感覚分析医学,cognitive neuroscience,加えて生体運動力学や行動心理学,交通安全医学,などをも含めた広領域研究が必要である.すなわち,病態解析の著しい困難性や医科学的アプローチを省略することなく,またいわゆる“compensatory disease”や“waste-basket syndrome”にカテゴライズしてしまうことをせず,きちんとした医科学的な基礎および臨床研究が必要である.
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