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肩こりで悩む国民は多く,厚生労働省国民生活基礎調査(平成16年)によると,肩こりは女性が訴える症状の第1位であり,男性でも第2位である.しかし,肩こりに対する医療者の関心は必ずしも高くない.その原因のひとつとして肩こりは症状名であり,数多くの疾患に付随する症状と考えられてきたことが挙げられる.また,肩こりを症状として呈する原因疾患が整形外科領域のみならず,内科,外科,眼科,歯科などの多くの領域にまたがっていることも,肩こりの研究を行ううえで弊害になったのかもしれない.また,たかが肩こりであり,治療の対象にならないとする考えもあるかもしれない.しかし,厚生労働省の調査によると肩こりは女性の通院者率では第4位を占めている.この誌上シンポジウムでは,現在肩こりについて活発に研究されている先生方に様々な角度からみた『肩こりの病態と治療』について執筆を依頼した.
病態として,中村宅雄氏と村上弦氏は僧帽筋を走行する静脈で動脈に伴走しない静脈の存在,静脈弁の欠損などの他に外椎骨静脈叢への流出経路の存在を上げ,理学療法への応用を述べている.高桑巧氏と熱田裕司氏は僧帽筋の組織循環を近赤外分光法を用いて検討し,肩こり症状を有する僧帽筋では筋の収縮に伴う血流の変化は健常時と差がないが,筋の有酸素能力が低下した状態が示唆されている.篠崎哲也氏らは1,347名の看護師に対するアンケートを行い,77%と多くの看護師が肩こりを自覚し,『肩こりあり』群が『なし』群に比べて日常のストレスを多く感じていた.肩こりの特徴は長期間にわたり毎日自覚していること,半数以上が痛みを伴っていることが判明した.肩こりを有する看護師のうち,約4割がストレッチなどの軽い運動を行うことで症状を軽快するとし,他の治療法に比べて多くの看護師が有用性を感じていた.矢吹省司氏は肩こりがある群と全く肩こりのない群を比較して,自覚的な労働の大変さ,脊柱所見の有無などに有意差があり,頚椎や肩の機能障害が基盤としてあり,それに伴ってそれらの支持組織である僧帽筋に負担がかかっている状態であり,仕事のストレスが関連していることや,青壮年者の肩こりと高齢者の肩こりを比較して,肩こりの病態や効果のある治療法が年齢層により異なる可能性を示唆している.井手淳二氏は肩こりに対して肩甲骨装具を用いた運動療法のみで治療し,91%に有効性を認め,成績不良群は自律神経失調症状,精神症状の関与を述べている.
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