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全人工肩関節置換術の多くは,関節リウマチの肩障害,変形性肩関節症などによる肩関節破壊病変に対して用いられているが,欧米に比べて本邦では1次性変形性肩関節症が少なく,その適応はリウマチ肩が比較的多い.関節リウマチ患者において肩関節病変は比較的頻繁に認められる.しかし,関節リウマチでは多関節障害であるためか,股関節や膝関節などに比べて肩病変に対する検査所見や治療に対する報告は少ない.リウマチ肩の治療の主体は薬物療法であるが,薬物療法を行っているにもかかわらず強い肩関節痛が持続する場合には,関節リウマチ早期で関節破壊がほとんどない症例では,温熱療法やステロイド剤の関節内注入などの保存的療法や鏡視下滑膜切除術が行われることが多い.近年,人工肩関節置換術がリウマチ肩に対しても有用との報告が散見されはじめ,関節リウマチ晩期で関節破壊が進行したために関節可動域が減少し,疼痛が高度な症例には人工関節置換術もしくは人工骨頭置換術が次第に行われるようになった.頻度は少ないが,変形性肩関節症においても手術適応は関節破壊の進行による関節可動域の減少および高度の疼痛である.禁忌としては 1)活動性感染巣の存在,2)腱板および三角筋機能の消失,3)神経病性関節症の合併,4)上腕骨ならびに関節窩を含めた肩甲骨の十分なbone stockがない症例,5)患者が手術および後療法に対して理解できない場合などである.
人工肩関節置換術術後は,過去のいずれの報告でも除痛には優れているが,可動域の改善には必ずしも十分といえない症例も多い.Neerはその原因として腱板機能が温存されていない症例は,除痛には優れているが,機能的,特に挙上が期待できないlimited goal群としている.単純X線上の問題として,長期間経過例では各コンポーネントの緩みが問題となり,少数例ではあるが再置換を要するほどの疼痛が起こる場合もある.Neer typeの上腕骨側のコンポーネントはセメント固定を行わないと高率に緩みが生じると報告されている.他関節の人工関節ではセメント使用による問題も起こり,肩関節もコンポーネントの固定にセメントを使用しない新しい人工肩関節システムが考案されているが,これらの評価には経過観察が必要である.また,関節窩側のコンポーネントは高率に緩みが起こっており,セメントテクニックの向上などが問題にされている.そのほか,関節窩コンポーネントを併用した人工関節置換術と関節窩コンポーネントを使用しない人工骨頭置換術の間には術後成績にさほど差がないとの報告もあり,関節窩コンポーネントを用いない人工骨頭置換術にすべきとの意見もある.しかし,人工関節置換術の術後成績のほうが人工骨頭置換術に比べて良好との報告や,関節窩コンポーネントを用いないと単純X線上関節窩のびらんが進行するなどの報告もあり,まだ意見の一致をみていない.いずれにしても術後良好な成績を得るためには肩関節の解剖を理解して厳密に手術手技に従うほかに適切な後療法を行う必要がある.除痛ならびに日常生活動作の改善については良好であるが,可動域改善の程度については手術時の腱板の状態が大きく左右するので,腱板機能が温存されている時期に手術を行うことが望ましい.
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