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de Quervain病は日常の外来診療で比較的多くみられる疾患である.その病態,治療法について,最近,いくつかの進歩がみられている.ばね指と同様に,いまだに適切な診断,治療が普及していない疾患でもある.本誌が誌上シンポジウムとして,本疾患をとりあげたことは時宜にかなったものといえよう.
de Quervainはノーベル賞を受賞したKocher教授の指導のもとで,母指基部の撓骨遠位端部の疼痛を訴える疾患を“Ueber eine Form von chronischer Tendovaginitis”と題し,1895年に報告した.その後,1911年,さらに1912年に症状,病理組織学的所見,治療法について総説的に述べた.de Quervainの論文はドイツ語で書かれていたため,英米系の人々には読まれる機会が少なかったのであろう.1997年,Illgenらは整形外科の歴史を紹介するため,de Quervainの論文を翻訳して,報告した.その始めのabstractの中で,Dr. Kocherが初めて記載し,最初の外科的治療を行ったのであるから,“de Quervain's tenosynovitis”の語はmisnomerであると記載した.しかしながら,de Quervainは論文の中でKocher教授から機会を与えられて,1894年,第1例の手術を行ったと述べ,そして,自身が勤務するLa Chaux-de-Fondsで1895年,第2例目の手術を行い,保存的治療を行った3例とともに報告した.論文のなかで,病態,手術方法について,Kocher教授から文通で賛意を得,Kocher教授がこの疾患をfibröse,stenosierende Tendovaginitisと名付けたと記載している.このような経由からみて,de Quervain病の名称がmisnomerであるとするのは正しくないであろう.なお,de Quervainの生い立ち,研究歴,業績に関しては,Ahujaらが詳細に記載しているので興味のある方のご一読をお薦めしたい.
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