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JR福知山線脱線事故やJALをはじめとする航空機に関する事故が連日報道されている.テレビ報道・新聞記事報道には,医療事故の報道がない日はまずないといって過言ではない.最近では手術患者取違え事故,古くはウログラフィンの脊髄腔造影で患者2人の死亡事故など枚挙にいとまがない.その中には運転手,整備士や術者に問題があったと報道されている場合が数少なくない.そして今年の4月よりISO(国際標準化機構)の規制が厳しくなり,医療器械の標準化が叫ばれている.マスメディアを通じた日常の報道とともに医療事故に関する国民の意識の高揚は著しいものがあり,今日ほど患者の安全と医療の質が要求される時代はない.刑事責任については,業務上過失傷害・致死罪が一般的に問われる.傷害の予見の可能性と結果の回避が求められる.術後死亡例のように刑事責任の決着を待たずに,行政の処分が下されることが新たに実施されるようになってきた.
「To Err is Human(人は誰でも間違える)」は2000年にアメリカ医学研究院(IOM)から報告された米国の医療事故と防止の報告書(AHRQ Publication 2000)の中で記載され,患者参加の事故防止をリスクマネジメントプロセスの重要項目としている.1992年にユタで,1994年にニューヨーク州で,それぞれ15,000人,30,000人の診療録の調査がなされた.その結果,米国では1年間に44,000人から98,000人が医療事故かその関係で死亡しているという.この数は,747ジャンボジェット機が2日おきに墜落し乗客が全員死亡する数に等しいという.乱暴だが,仮に米国で発生する頻度を日本の医療機関にあてはめると,実に15,000人から34,000人が医療事故で死亡していることになる.これら一連の事故を振り返ると,個人の不注意や知識・技術不足で片付けられがちである.しかし,過密スケジュールの中で,人がエラーを犯した際に,安全な方向へ逃れるシステムを構築する必要がある.そして大きな事故を契機に,病院の医療提供の現場での仕組みや,その新しい手技自身が問題視される傾向にあり,迅速な対応が求められる.
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