メディカルエッセー 『航跡』・40
麻酔科教授の橇遊び
木村 健
1
1アイオワ大学医学部外科
pp.344-345
発行日 2000年3月20日
Published Date 2000/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407904057
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アイオワ大学病院では,朝一番の予定手術は7時15分に執刀開始と決められている.6時半を過ぎると,30の手術室に続々患者が運び込まれ,一斉に麻酔がはじまる.各室入口のドアの横にあるシンクで,道具出し担当のテクニシャン達が手洗いをはじめる.1日のうちで手術室が最も活気にあふれるひとときである.
ウィークエンドの明けた月曜日,いつものように7時過ぎには小児外科が使っている12号室に足を踏み入れる.手術台の上では患児の顔に麻酔のマスクがのせられて導入の真っ最中.室内を忙しく動き回っている外科研修医,ナース,テクニシャン,麻酔科スタッフ達から「グッドモーニング」の洗礼を浴びる.「ヘィ,ウィークエンドはどうだった?ずいぶん日焼けしてるじゃない.ほう,カリブ海へ1週間も行ってたの.道理でね.どれどれ,もう(患児は)眠ったかい?ぼつぼつ手を洗うとするか」.13年間,月曜日の朝が来るたび同じ手術室の同じ風景の中で,役者こそ違え同じ役柄の登場人物達とあきもせず同じ会話を繰り返してきた.最初の数年はひと言モノを言うたび相手から戻ってくる反応は,肌を刺し貫く針のように感じられたものである.必然的に寡黙となり,ジョークを連発するようなムードではなかった.相手の言葉にトゲがあるわけでなく,ただそう感じただけのことであった.
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