メディカルエッセー 『航跡』・16
カナダ横断30日間講演旅行(3)
木村 健
1
1アイオワ大学医学部外科
pp.1580-1581
発行日 1997年12月20日
Published Date 1997/12/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407903058
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トロントでジェットを乗り換え,1時間半ほど東へ向かって飛ぶとカナダ東端の街,ハリファックスに着く.人口12万人ほどの静かな街は,丘の上に築かれた要塞の周囲を取り巻くように発展してきた港町である,目の前にはネービーブルーの大西洋が広がっている.鉛色の潮の色合いは,グリーンがかった色彩の太平洋と対照的である.同じ海でありながら何故こうも違いがあるのだろう.思いを他所に,巨大な水塊は水平線の彼方まで広がったままである,ハリファックスはノヴァスコシア州の東端に位置している.帆船による航海時代にはヨーロッパとアメリカ両大陸を結ぶ接点として栄えた.ノヴァスコシアは“新しいスコットランド”という意味である.読んで字のごとく,この街に定住した人々の故郷は英国であった.同じカナダでも日常語,道路標識それに人々のライフスタイルがフランス一色のケベック州と対照的に,ノヴァスコシアは古くから英国の伝統を維持している.
質素ではあるが塵ひとつ落ちていない清潔な空港に降り立つと,Dr.マイク・ジャコマントニオが二人の坊やと一緒に出迎えてくれた.名前でわかる通り,マイクの先祖はこの街に住みついたイタリア移民である.二月前にトロント小児病院で二年間の研修を終えたマイクは,大都会の大学や小児病院から呈示のあったポジションをふり切って生まれ育った故郷のハリファックスに戻り,小児外科医としてこの地域に住む人々のために働くという道を選んだのであった.
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