メディカルエッセー 『航跡』・12
Colon Patch Graft手術,オーストラリアへ行く
木村 健
1
1アイオワ大学医学部外科
pp.1052-1053
発行日 1997年8月20日
Published Date 1997/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902819
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1984年3月,オーストラリアの首都,キャンベラ空港に降り立ったのは昼すぎ,夏の残り日が照りつける最中であった.迎えてくれたDr.Tの車でロイヤルキャンベラ病院に向かう.小児病棟に着くと,急き立てられるようにして病室に案内された.不思議に思いながら歩を進めると,目の前に雲つくような大男が立ちはだかる.陽焼けした肌は赤鬼のごとく,頭に生えている金髪をふり乱した姿は大航海時代の水夫頭のイメージである.わけのわからぬままこの男に抱きすくめられ,いのち縮む思いがするのであった.男は腕の力をゆるめると,私の眼の奥をじっとのぞき込んで,「ユーがドクターキムラか?」というのである.「イエス」と答えると蒼眼から見る見る涙があふれ出て来て頬を伝い始めるのであった.「一体これはどういうことですか」後ろに立つDr.Tに尋ねる.「ユーの手術で私のボーイがいのち拾いしたのです」と大男は再び私を抱きすくめるのであった.
1981年5月,フロリダのターポンスプリングで開かれた米英合同小児外科学会には世界中から600人の小児外科医が集まった.この学会で私は今日colon patch graft法と呼ばれて広く施行されている広範ヒルシュスプルング病に対する新しい手術法を発表した.
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