臨床外科交見室
癌および癌患者の集学的治療に思うこと—QOLをめざして
高尾 哲人
1
1大阪府立病院外科
pp.931
発行日 1997年7月20日
Published Date 1997/7/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407902777
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現在,広く行われている癌の集学的治療は,癌を根治して癌死を予防することを目的としている.その長年にわたる業績と反省から,癌対策医療は,癌患者のQOL(quality of life)を目的とした集学的治療に向けられている.癌患者全体の5年生存率は,現行の集学的治療法を駆使しても,五分五分と思われる.したがって,癌根治を目的とした新たな集学的治療法の開発を計る一方,癌患者に対してQOLを目的とした集学的治療を行う必要がある.
外科的切除術によって根治できる早期がん発見の動機は,がん検診である.喫煙は,多くの癌種発生の高危険因子である.高カロリー・高脂肪食と低繊維食は,大腸癌や乳癌発生の高危険因子である.また,発癌高危険因子は,癌以外の成人病の発生にも,大いに関与している.とくに,呼吸・循環器系には,多大な障害を与える.がん検診の対象者は,日常生活において発癌高危険因子に晒されているか,または,自ら危険因子を取り込んでいる人達である.例えば,肺癌検診は,喫煙者を対象としている.したがって,喫煙の生体に及ぼす悪影響を啓蒙して禁煙を指導することなく検診を行うことは,かえって多くの受診者に喫煙を奨励する結果を招くおそれがある.がん検診の目的は,発癌高危険因子を日常生活から除外することの啓蒙と,癌根治可能な小さな癌腫を発見することにある.
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