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Introduction
前回までの連載では,大動脈弓から頭側の領域,すなわち左右の上縦隔領域および頸部領域について解説した.そして今回からは,大動脈弓から尾側の領域の解説に移りたい.大動脈弓を解剖学的に重要なメルクマールと捉えるのは,これまでの外科解剖にはない発想かもしれないが,本連載では食道外科解剖における大動脈弓の重要性を繰り返し強調してきた.簡単に述べると,肺尖部を後天的に伸び出した胸腔であると見なせば,大動脈弓は発生学的にみて体腔(胸腔・腹腔)の上端であり,重要な解剖学的境界構造と考えられるうえに,頸部からの手術手技や内視鏡による診断など臨床的観点からも非常に有用性が高い解剖学的指標なのである.詳細は第2回Figure 8をご参照いただきたい.
今回のテーマである大動脈弓から食道裂孔までの大動脈弓下領域は,基本的には均一な層構造を形成している.心臓および肺の発達により胸郭が拡大して,その結果として大動脈や食道が伸張したという発生過程を想定すると,この領域は「金太郎飴」のごとく,均一な層構造を保っていると考えるのが妥当であろう.その均一な層構造とは第5回で解説した,改定された同心円状モデルで示される層構造である.本稿でも解説する通り,改定された部分は,大血管系が腹側,背側いずれかに属する血管であることに着目して,大血管が属するVascular layer自体も腹側・背側に2層化するという点である.本稿で示す大動脈弓以下の均一な層構造は,このVascular layer自体が,腹側の心臓を含むVascular layerである「Cardiac layer」と背側の下行大動脈を含むVascular layerである「Aortic layer」に2層化した同心円状モデルに基づいている.
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