- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
- 参考文献
はじめに
臨床肝移植は米国のStarzlら1)により1963年に開始された歴史の浅い医療である.当初,その成績は満足できるものではなかったが,患者選択・手術手技・臓器保存方法・免疫抑制療法・周術期管理の改善などにより成績は飛躍的に向上した.米国では年間約7,500例の脳死肝移植が行われており,すでに確立された医療であるといえる.欧米の肝移植は脳死ドナー(臓器提供者)からの臓器摘出による脳死肝移植が中心である.本邦では1997年に臓器移植法が施行され,脳死肝移植が法制上実施可能となった.2010年の「改正臓器移植法」により,15歳以下の臓器提供・親族同意で臓器提供が可能となり,脳死臓器提供は若干増加傾向にあるが,臓器移植待機患者の需要を十分に満たすには至っていない.
脳死肝移植が進まない背景のもと,わが国の肝移植は健常人の部分肝臓を用いた生体肝移植が中心に行われてきた.1989年に島根大学のNagasueら2)が胆道閉鎖症による末期肝硬変の男児に生体肝移植を施行したのが本邦初例である.生体肝移植は,肝臓が解剖学的に分割可能な臓器であること,再生可能な臓器であること,という二つの特徴をいかした医療である.
生体肝移植は,脳死肝移植と違い大きく2つの利点がある.第一に生体ドナーからの臓器提供のため,冷保存時間の長い脳死臓器よりもviabilityの良好な臓器を移植できることである.術前に十分なドナー評価が可能で,臓器摘出から移植までの冷保存時間が短く,多くは再建すべき血管径も長く良好な状態の肝臓をレシピエント(臓器享受者)に提供することが可能である.第二はレシピエントの状態に応じて,至適時期に待機手術が可能なことである.生体移植の欠点は,健常な生体ドナーに医学的メリットのない臓器提供のための肝切除手術が必要なことである.生体肝移植のドナー死亡例も報告されており,生体ドナーの完全な安全性は担保されていないため,脳死肝移植の普及・啓発が望まれているのがわが国の現状である.
本邦では1989年〜2015年末までに27年間で8,387例の肝移植が実施されている(図1).18歳未満の小児生体肝移植は2,897例で34.5%にあたる.国立成育医療研究センターでは2005年に肝移植プログラムが開始され,2017年9月現在まで485例の肝移植を実施してきた.年間小児肝移植症例数は60〜70例で,本邦の小児肝移植の約70%を占めている.本稿では小児肝移植の適応・現状・難しさ・将来について概説する.
Copyright © 2018, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.