表紙の心・6
聖コームたちの脚移植手術
大村 敏郎
1,2
1川崎市立井田病院外科
2慶応義塾大学医史学
pp.1048
発行日 1988年6月20日
Published Date 1988/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1407210105
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今年に入ってわが国でもにわかに臓器移植の気運が亢まってきた.外科的な手術手技と免疫学的な裏付けがそろい,臓器の提供者と社会的な同意が得られれば,再び移植を進めるカギは外科医の手にもどって,外科医の決断にかかってくるのではないだろうか.
歴史的にみて移植が登場してくるのは医学書ではなく,中世の聖人伝である「黄金伝説」の方が先である.それによれば6世紀のローマで足にひどい潰瘍を作って悩んでいた寺男の所へ,ある晩聖コーム(St.Côme)と聖ダミアン(St.Damien)の2人が夢枕に立って,この足は取り換える必要があるといって,その日に埋葬したムーア人の死体から足をとってきて付けかえてくれた.翌朝起きてみると潰瘍はなくなっていた.念のために掘りおこしてみた昨日の墓地には,片足のないムーア人の死体の横に潰瘍のある足が置いてあったという.ムーア人は肌が黒く,ローマ人は白かったから,移植片はくっきりと色が違い,移植を強調することになったのだろう.「黒い脚」という伝説になっている.
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