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皮膚切開は病巣への到達が容易で,しかも十分な手術野がえられることが最も重要な条件である.直腸は骨盤内臓器であり直腸に到達する経路には経腹的,経会陰的および経仙骨的の3つがある.上部および下部直腸の一部では経腹的な経路が基本であるのに対し,下部直腸や肛門管に対しては経腹経路のほか,経会陰あるいは経仙骨経路が用いられる.開腹術として私は原則として臍の左側を通る中下腹部正中切開を用いている.臍の左側の利点は肝円靱帯を切離しないことと,左側結腸の授動に際して有利なことである.欠点は人工肛門に近いために創感染の恐れがあることであるが,実際には創感染はほとんど問題はない.
皮切の大きさは臍上5横指から恥骨結合直上までである.しかし上部直腸に限局した手術では臍以下の下腹部正中切開も用いる.この他の開腹法としてはBabcock切開,左側旁正中切開,下腹部弧状切開などがある(図1).私は正中切開に次いで旁正中切開を用いる.旁正中切開の利点は腹壁のヘルニアが少ないことであるが,開腹・閉腹操作が正中切開より煩雑であること,人工肛門に近いことなどの欠点がある.下腹部弧状切開は下腸間膜根部の操作が困難なこと,腹壁創と人工肛門が近いことなどの欠点がある.開腹後,手術野の展開をえるために小腸をintestinal bagで包んで,腹腔外に脱転する方法と,小腸を2枚ガーゼに包んで上腹部に圧排する方法とがあるが,大きな皮切では前者を,大きくない皮切では後者を用いる.もちろん小腸全体をintestinal bagに包んで腹腔外に脱転する方が良好な視野がえられるが,小さな皮切では小腸の脱転ができないからである.術者の位置は砕石位とした患者の右側に立つて,皮切から骨盤内病巣と肝転移の検索,左右のS状結腸間膜の切離,尿管の走行の確認,下腸間膜動静脈の結紮切離,左側結腸の授動,S状結腸の切離までの操作を行う.次いで,患者の左側に移動して骨盤内の操作を進めるわけである.腹腔内の手術操作は右側に立つ方が手術野がよく,操作がやりやすいという利点がある.骨盤内における操作については土屋教授と大差はない.
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